第335回談話会
論題 俄を演じる人々―娯楽と即興の民俗芸能―
報告者 松岡 薫氏(天理大学)
コメンテーター 西岡陽子氏(大阪芸術大学)
日時 2021年9月17日(金)18:30-
開催形式 オンラインによる(zoom)
趣旨
「俄(にわか)」という芸能をご存じだろうか。
一般に俄とは、最後に「落とし」と呼ばれる掛け言葉で終わる滑稽な芝居のことを指す。「にわか」という語が示すように、即興的で一度かぎりの演技であるという意識が強い。その上演形式は、テレビのお笑い番組でよく見る漫才やコントのようなものから、時代劇のパロディまで、地域ごとに様々である。また、演じる人数も1名から10名近い大人数で演じられるものまで様々であるし、時間も1分以内で終わるものから1時間ちかく演じるものまで、じつに多様である。さらには、必ずしも芝居形式の芸能かというとそういうわけでもなく、仮装パレードや造り物を「俄」と表現する地域もある。
俄という芸能の最大の特徴は、一般に「型」と呼ばれるような不変的な芸態様式が希薄であるという点であろう。むしろ、毎年新作の演目が作り出されることに代表されるように、一度きりの演技であることに重点が置かれている。
また、発表者がフィールドワークを行ってきた熊本県阿蘇郡高森町の俄の場合、演者たちは稽古において台本を用いず、演出家や脚本家といった演技の指導的立場の者も存在しない。題材選び、登場人物、物語の展開から最後の「落とし」に至るまで、全て演者同士での口頭でのやり取りのみで決めていく。稽古や祭礼での上演では、演者は相手の台詞や反応を見ながら、その場で即興的に台詞を考えて演技する。こうした場面から見てとれるのは、決まりきった演技など存在せず、演者同士や演者と観客とのやり取りを通じて演技が作られていく姿である。
そこで発表者は俄の演技を不変的で固定的なものとして捉えるのではなく、常に変化を伴いながらも集団のなかで継承されるものとして考える。そして、規範となる演技の型を所与のものとしてきたこれまでの先行研究に対し、俄のもつ創造的で即興的な側面を視野に入れることによって、演者自らが他の演者や観客らとの関わり合いのなかで演技を身につけ、演じていく過程を考察する。 このように、演技の可変性が顕著にみられる俄を研究対象として取り上げることは、民俗芸能が生み出される過程を動態的に捉え、民俗芸能研究に新たな境地を切り拓くことになると考えている。
参加方法
・参加希望者は、9月10日(金)23:59までに会員あて告知メールに記載されている申し込みURLから申請して下さい。後日IDとパスワードをお送りします。
・参加者は原則として京都民俗学会会員のみとします。
・オンラインアプリはzoomを使用します。なお参加希望者へのアプリ使用についてのサポートは行いません。