日時 2021年4月28日(水)18:30-
開催方法 オンライン形式(zoom)
発表者 加藤幸治氏(武蔵野美術大学)
論題 「民俗誌の現在地ー東日本大震災10年に何を書くのかー」
ゲストコメンテイター 山下 香氏(甲南女子大学)
後援 「野の芸術」論研究会(科研「「野の芸術」論ーヴァナキュラー概念を用いた民俗学的アート研究の視座の構築」グループ)
要申し込み 申し込みはこちら(4/23(金)23:59〆切)
要旨
東日本大震災10年のいま、民俗誌が問われている。
発表者は、「文化財レスキュー」から「復興キュレーション」へとつながる震災から10年にわたる牡鹿半島・鮎川との関わりを、ひとつのフィールドワークとして振り返る。前者は、被災した文化財や博物館や収蔵庫のコレクション等を救援することであり、価値を認められた資料を応急処置し、復旧する活動である。それに加え「復興キュレーション」とは、コラボレーションや展示、ワークショップといったミュージアムのスキルを使って、地域文化を掘り起こしたり、新たな価値を生み出したり、それを共有したりする活動である。「復興キュレーション」においては、民俗調査そのものが復興まちづくりへの「参加」の方途であり、フィールドワークは関係性の構築のプロセスである。拙著『津波とクジラとペンギンと:東日本大震災10年、牡鹿半島・鮎川の地域文化』(社会評論社、2021年)は、「復興キュレーション」を通じた民俗調査によって描いた、三陸・牡鹿半島の民俗誌であった。
フィールドワーカーは、どういう形であれフィールドと出会い、人々と関わり合いながら地域理解を進め、時にはあからさまに拒絶されたり意味もなく称揚されたりしながら、長期的にその生活の営みに関与し続けていく。変化していく地域社会の状況のなかで人々が何を語り、何がどのように解釈され、それがどのような動きを促すのかといった動向に「付き合い続ける」ようなものでもある。そのため、ソーシャル・エンゲージメント(社会的関与を重視した実践)と不可分である。菅豊によるパブリック・フォークロアの議論、村上忠喜による「池に石を放り込んでその波紋を読むような調査研究法」による「黒子調査」批判をはじめ、まちづくりや地域活性化、伝統文化継承、文化行政や博物館、環境との関わりや住民運動、手しごとやモノづくり、介護や福祉など、さまざまなテーマにおいて民俗学の実践性が問われている。
本談話会では、牡鹿半島・鮎川の地域文化での実践を事例としながら、民俗誌の現在地を確認しながら、いま一度フィールドワークと記述について考えてみたい。