第338回談話会
論題 現代漁業民俗論−目的と方法−
日時 2022年1月28日(金)18:30〜
開催 オンライン(zoom)
報告 増﨑勝敏氏(大阪府立港高等学校教諭)
コメント 河原典史氏(立命館大学文学部教授)
報告要旨
報告者は2019年に小著『現代漁業民俗論 漁業者の生活誌とライフヒストリー研究』を出版した。これは報告者がこれまでに発表してきた漁業民俗に関する拙論と、いくつかの書き下ろしにより構成されている。本報告はおもに、この小著の内容の一端を紹介するものである。
報告者が小著に「現代」の語を冠したのは、これまでの漁業に関わる民俗研究に対する問題意識による。従前の漁業研究では民俗調査としての性格上、漁船が動力化される以前の、いわゆる「伝統的な」漁業を検討されることが中心であった。しかし第2次世界大戦以前の伝承すら聞きうることの困難となった現代では、畢竟こうした方法では漁業研究は先細りなものとなる。また、漁業現場ではFRPの動力漁船が使用され、レーダーや魚群探知機、GPSプロッターなどの電子機器が普及し、漁業の様相は飛躍的に変化している。そうしたこれまで看過されることの多かった「現代」、具体的には昭和時代後期以降の漁業について検討することが、小著の主眼となっている。
小著は大部とはいえないものの、全体で13章に及び、限られた時間でその全体を紹介することはできない。そこで、本報告ではつぎのような流れをとる。まず、「方法の目的」として研究の対象と現代学としての漁業研究の意味づけを行う。つぎに「研究の方法」として、直接観察の有用性と生活誌の検討、ライフヒストリー分析について言及する。そのうえで漁船同乗による直接観察の成果と、船員手帳を活用したライフヒストリー調査の成果を、大阪府泉佐野市の小型機船底びき網漁業の事例と、高知県中土佐町久礼の漁業者の事例から紹介する。その成果として、前者の直接観察ではオカでの聞き取りからはなしえないであろう漁撈活動の実態分析を行い、後者では漁業者個人がいつ、どういった動機でその漁船(船舶)に乗り組んだのか、また漁船での生活誌を、時系列にしたがって詳細に検討する可能性を示す。
そのうえで、2つの学術誌で頂いた書評に挙げられた拙著の課題について、若干ながらその回答を試みる。
そして最後に、漁業の生産現場を検討するに際しては、市場、加工業、流通業、そして消費者の動向を視野に置く必要性を喚起する。「川上」から「川下」までを見据えた研究、すなわち「水産民俗学」の視座について言及する。
参加方法
・参加希望者は、1月25日(火)23:59までに会員あて告知メールに記載されている申し込みURLから申請して下さい。後日IDとパスワードをお送りします。
・参加者は原則として京都民俗学会会員のみとします。
・オンラインアプリはzoomを使用します。なお参加希望者へのアプリ使用についてのサポートは行いません。